富裕層への課税強化はメリットばかりではない?国内外の現状や節税対策も
「富裕層への課税強化はメリットばかりではない?」「富裕層への課税強化はどうなる?」と疑問を感じている方も多いでしょう。
富裕層への課税強化に対して有効な節税対策を講じるには、現在課されている税金や今後実施される可能性がある税金の特徴を把握しておくことが大切です。
この記事では、富裕層への課税強化に向けて検討されている税金や課税強化のメリット・デメリットを解説します。
富裕層に課税される主な税金や節税対策についても紹介するので、参考にしてください。
目次
富裕層とは
富裕層には明確な定義はないものの、純金融資産保有額(※)が1億円以上〜5億円未満の個人や世帯を指すのが一般的です。
※保有する預貯金や株式などの金融資産の総額から、住宅ローンといった負債を引いた金額
野村総合研究所が発表した2023年の日本における純金融資産保有額のデータは、下表の通りです。
種類 | 世帯の純金融資産保有額 | 世帯数 | 割合 | 資産規模 |
超富裕層 | 5億円以上 | 11.8万 | 0.2% | 135兆円 |
富裕層 | 1億円以上〜5億円未満 | 153.5万 | 2.8% | 334兆円 |
準富裕層 | 5,000万円以上〜1億円未満 | 403.9万 | 7.3% | 333兆円 |
アッパーマス層 | 3,000万円以上〜5,000万円未満 | 576.5万 | 10.3% | 282兆円 |
マス層 | 3,000万円未満 | 4,424.7万 | 79.4% | 711兆円 |
富裕層の世帯数は153.5万世帯と多い印象を受けますが、全体の割合は2.8%であるため、少数といえます。
ただし、資産規模で見ると富裕層は世帯数が多いマス層の半分に匹敵し、課税が強化されることで大きな影響を受ける可能性があるので注意が必要です。
次の章以降で紹介する富裕層に課税される税金をチェックして、どの程度影響を受けるか確認しましょう。
引用元:野村総合研究所|野村総合研究所、日本の富裕層・超富裕層は合計約165万世帯、その純金融資産の総額は約469兆円と推計
富裕層に課税される主な税金
富裕層に課税される税金にはさまざまな種類がありますが、ここでは影響が大きい税金として以下の2つを解説します。
- 所得税
- 相続税・贈与税
ご自身の所得や資産と照らし合わせながら、それぞれの内容をチェックしましょう。
税金①:所得税
所得税とは、個人の所得にかかる税金のことです。
なお、所得とは1年間のすべての収入から必要経費などを差し引いた金額を指します。
所得税の税率は所得額に応じて下表のように7段階に設定されており、累進課税を採用しているのが特徴です。
課税所得の金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円から194万9,000円まで | 5% | 0円 |
195万円から329万9,000円まで | 10% | 9万7,500円 |
330万円から694万9,000円まで | 20% | 42万7,500円 |
695万円から899万9,000円まで | 23% | 63万6,000円 |
900万円から1,799万9,000円まで | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円から3,999万9,000円まで | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
例えば、1年間の課税所得が1,000万円である場合、所得税額は以下のように計算します。
1,000万円×33%-153万6,000円=176万4,000円 |
上記の税率や計算式を参考に、ご自身の課税所得から所得税額をシミュレーションしましょう。
税金②:相続税・贈与税
相続税とは、亡くなった方からの相続などによって財産を取得する際に発生する税金のことです。
相続した財産価額の合計額が、基礎控除額を超える場合に発生します。
基礎控除額は、以下の計算式で算出可能です。
3,000万円+(600万円×法定相続人数) |
相続税は下表のように取得金額に応じて8段階に税率が設けられており、所得税と同様に累進課税を採用している税金です。
法定相続分の取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | 0円 |
1,000万円超から3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超から5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超から1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超から2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超から3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超から6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
また、贈与税とは個人からの贈与により財産を取得した場合にかかる税金を指します。
贈与税には下表のように、「暦年課税」と「相続時精算課税」の課税方法があります。
種類 | 特徴 | 税率 |
暦年課税 | 1年間に贈与された額に応じて課税される | 10〜55%の8段階 |
相続時精算課税 | 贈与時は累計2,500万円まで贈与税が非課税で、相続時に生前に贈与を受けた財産も含めて相続税が課税される | 贈与時は2,500万円を超えた部分は一律20% |
財産を贈与する場合は贈与する期間や贈与対象者によって最適な課税方法が異なるため、制度を比較しながら検討しましょう。
相続税・贈与税の改正内容や節税のポイントを詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
【関連記事】【2024年から】相続税・贈与税の改正内容|節税のポイントも解説
引用元:
・国税庁|No.4155相続税の税率
・国税庁|No.4408贈与税の計算と税率(暦年課税)
・国税庁|No.4103相続時精算課税の選択
富裕層への課税強化に向けて検討されている税金
富裕層への課税強化に向けて検討されている税金として、以下の2つを紹介します。
- 金融所得課税
- 富裕税
効果的な節税対策を講じるためにも、それぞれの税金について理解を深めましょう。
税金①:金融所得課税
金融所得課税とは、株式や投資信託などの金融商品から得た所得に発生する税金のことです。
例えば、株式投資で得た配当金や譲渡の利益に金融所得課税が課されます。
金融所得課税の税率は所得額に関係なく一律で20.315%で、その内訳は下表の通りです。
種類 | 税率 |
所得税 | 15% |
住民税 | 5% |
復興特別所得税 | 0.315% |
2023年度の税制改正において、税負担の適正化を目的として富裕層に対する金融所得課税の引き上げが決定されました。
具体的には、基準所得金額が3億3,000万円を超える場合に金融所得課税の引き上げが適用される可能性があります。
基準所得金額が3億3,000万円を超えた部分に22.5%の税率を乗じた金額が基準所得税額(※)を超える際は、超えた金額に応じた所得税が上乗せされる仕組みです。
※金融所得を含めた年間の総所得金額から基礎控除額を差し引いた額
すでに金融所得課税の引き上げは始まっているので、節税を検討している方は早めに対処しましょう。
金融所得課税の引き上げがいつからスタートしたか気になる方は、以下の記事をご覧ください。
【関連記事】金融所得課税の引き上げはいつから?強化の影響や今からできる対策も解説
引用元:
・国税庁|株式・配当・利子と税
・財務省|令和5年度税制改正の大綱の概要
税金②:富裕税
富裕税とは、個人もしくは世帯が保有する資産から負債を差し引いた純資産に対して課税される税金のことです。
富裕税の目的は、富の再分配によって不平等を縮小する点にあります。
日本でも1949年に富裕税が導入されたものの執行の困難さから1953年には廃止されており、施工後わずか3年で幕を閉じました。
富裕税が導入されたのは所得税の最高税率の引き下げにともない、富の集中を避ける必要があったためです。
当時の富裕税は、毎年0.5~3%の超過累進税率で課税されていました。
日本において富裕税の再開はたびたび議論されていますが、財産の評価や把握するのが困難でコストがかかるなどの理由から実現していません。
また、フランスやスペインなどの諸外国では現在でも富裕税が適用されています。
日本における富裕税の再開は決まっていませんが、今後適用される可能性もあるので対策を検討しましょう。
引用元:国税庁|富裕税の創設とその終末
富裕層への課税を強化するメリット
富裕層への課税を強化するメリットは、以下の3つです。
- 経済的格差の是正が期待できる
- 税収が増加する
- 国民全体の生活水準が向上する
それぞれのメリットをチェックして、富裕層への課税について理解を深めましょう。
メリット①:経済的格差の是正が期待できる
所得の多い富裕層への課税を強化することで、経済的格差の是正が期待できます。
富裕層への課税強化によって得た税金を、中間層や低所得層の生活水準を高める政策に使えば、富の再分配につながるのも利点の1つです。
また、富裕層への課税強化による経済的格差の是正は、国連で採択された持続可能な開発目標である「SDGs」の達成にも貢献できます。
17個の目標が掲げられているSDGsのうち、富裕層への課税強化による経済的格差の是正に関係ある目標は下表の通りです。
種類 | 内容 |
目標1 | 貧困をなくそう |
目標10 | 人や国の不平等をなくそう |
日本では所得が年1億円を超えると所得税の実効税率が下がる「1億円の壁」という現象が発生している分、経済的格差の是正がより強く求められています。
メリット②:税収が増加する
富裕層の課税を強化すると、税収が増加するのも大きなメリットです。
2023年度の税制改正による金融所得課税の引き上げは、課税対象者が200〜300人ほどで、約300億〜600億円の税収が得られるという試算があります。
なお、富裕層に課税を強化することで税収が増加する主なメリットは、以下の通りです。
- 国の財源が安定する
- 社会保障が充実する
- 中間層や低所得層の意欲低下を防げる など
税収の増加によって国の財源が安定したり、社会保障が充実したりすると、世代や地域に関係なく国民全体が安心した生活を送れます。
社会保障の充実については次の章で解説するので、あわせてチェックしましょう。
メリット③:国民全体の生活水準が向上する
富裕層の課税強化で財政が健全化されれば、社会保障が充実して中間層や低所得層における生活水準の向上が見込めます。
また、社会保障が充実すると、以下のような状態でも安心して暮らすことが可能です。
- 病気
- 出産
- 老齢
- 障がい
- 失業
中間層や低所得層の生活が安定すれば、所得を消費に回すので経済活性化も期待できます。
さらに、生活水準の向上や生活の安定化は、経済的格差の是正と同様にSDGsの目標1と10の達成につながるのもメリットです。
すべての国民が豊かに生活するには、金融所得課税の引き上げなど富裕層に対する課税強化が必要といえるでしょう。
富裕層への課税を強化するデメリット
富裕層への課税を強化するデメリットは、以下の2つです。
- 資産の国外流出が増える
- 執行・納税コストが高い
「富裕層への課税強化はメリットばかりではない?」と疑問を感じている方は、参考にしてください。
デメリット①:資産の国外流出が増える
富裕層への課税を強化すると、海外の金融商品などに投資する方が増えて、資産の国外流出を招くリスクがあります。
税率が低く資産運用がしやすい国へ富裕層が移住する場合は、消費活動が停滞して経済活性につながりません。
また、富裕層は経済的に安定しており、比較的子育てがしやすい世帯だと考えられるので、富裕層が海外へ移住することで少子化が進む恐れがある点もネックです。
資産の国外流出を避けて日本が発展していくためには、富裕層への課税強化と経済活性のバランスをとる必要があります。
デメリット②:執行・納税コストが高い
富裕層への課税を強化すると膨大な所得や資産を税務行政が精査する手間がかかり、執行・納税コストが高くなるのが難点です。
不動産や株式など所得や資産の構成が複雑であることも、執行・納税コストが高い要因だと考えられます。
富裕層への課税強化による執行・納税コストが税金の増収に見合わない場合は、社会保障などに回す税金が減少して、先ほど紹介したメリットが最大限に活かされません。
中間層や低所得層の生活水準を向上させて国民の生活を豊かにするには、富裕層に対する課税強化を実施する前に十分なシミュレーションが求められます。
海外における富裕層への課税状況
海外における富裕層への課税状況を、以下の2点から解説します。
- 金融所得課税
- 富裕税
特に海外での資産形成を検討している方は、諸外国の事情を踏まえて投資先を検討しましょう。
金融所得課税
海外における富裕層への金融所得課税は、下表の税率が適用されています。
国 | キャピタルゲイン | 配当 | 利子 |
日本 | 20% | ||
アメリカ | 0〜37% | 0〜20% | 10%~37% |
イギリス | 10〜20% | 7.5〜38.1% | 0〜45% |
ドイツ | 26.4% | ||
フランス | 12.8% |
ドイツやイギリスなど日本よりも高い税率が課される国もあり、一概に日本における金融所得課税の税率が「高い」とはいえません。
海外での投資を考える場合は、どれくらいの税率が課されるか確認して利益を出しやすい国を選びましょう。
各国における金融所得課税の税率や課税方式について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
【関連記事】【国際比較】各国の金融所得課税|非課税の国も?税の基礎知識とともに解説
富裕税
海外における富裕税の実施状況は、下表の通りです。
国 | 導入時期 | 廃止時期 | 税率 |
日本 | 1949年 | 1953年 | 0.5~3% |
フランス | 1981年 | 1987年 ※1989年に再導入 |
0.5~1.5% |
アイスランド | 1981年 | 2006年 ※2010~2014年に再導入 |
1.5~2% |
スペイン | 1978年 | 2008年 ※2011年に再導入 |
1.7〜3.5% |
コロンビア | 2022年 | – | 0.5〜1% |
フランスなどの富裕税を取り入れている国々では、廃止後に再導入している点が特徴的です。
また、コロンビアのように近年になって富裕税を採用している国もあり、今後の諸外国における動向が見逃せません。
日本の富裕税は1953年に廃止されていますが、再開する可能性があるため注意しましょう。
【富裕層向け】課税強化に負けない節税対策
課税強化されても富裕層として資産を維持するためには、「資産を守る対策」と「課税所得を減らす対策」の2つが必要です。
資産を守る対策 | ・プライベートバンク(※)に資産管理を依頼する ・美術品など価値が急落しにくい実物資産に投資する ・海外資産を保有することで貨幣を分散する |
課税所得を減らす対策 | ・不動産に投資して建物の購入費用を減価償却する ・生命保険料控除や寄附金控除など各種控除を活用する ・非課税枠のある新NISAやiDeCoで資産運用する |
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富裕層の節税対策には不動産投資もおすすめ
富裕層の節税対策を検討している方には、以下のような理由から不動産投資もおすすめです。
- 建物の購入費用を減価償却することで長期的に節税できる
- 不動産投資に関係する費用を経費計上して課税所得を抑えられる
- 家賃によって安定的な収入を得られる
- インフレ時でも資産価値を維持しやすい
上記のように、不動産投資は節税対策をしながら資産運用ができる点が大きな魅力となります。
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※不動産投資による節税は物件などの条件により効果が異なります。節税を目的とした投資をする際は専門家のサポートを受けながら行いましょう。
富裕層の課税に関するよくある質問
富裕層の課税に関するよくある質問として、以下の2つを解説します。
- 富裕層の課税は年々強化されている?
- 富裕層への課税強化はデメリットもある?
節税対策を始める前に、疑問を解消しましょう。
質問①:富裕層の課税は年々強化されている?
2023年度の税制改正によって金融所得課税が引き上げられるなど、富裕層の課税は年々強化されています。
金融所得課税の引き上げ以外にも、2020年度の税制改正では海外の中古不動産における損益通算が制限されました。
今後も富裕層への課税強化が進む可能性があるので、税制改正の動向に注意しましょう。
引用元:財務省|令和2年度税制改正の大綱
質問②:富裕層への課税強化はデメリットもある?
富裕層への課税強化には、以下のようなデメリットがあります。
- 資産の国外流出が増える
- 執行・納税コストが高い
一方で富裕層への課税を強化すると、経済的格差の是正につながったり、税収が増加したりするのがメリットです。
富裕層への課税を強化するデメリットの影響が強くなる場合、メリットの効果が薄くなるのでバランスが重要だといえます。
まとめ:富裕層の課税強化に備えて資産形成とともに節税対策を
富裕層への課税強化に向けて、2023年度の税制改正に盛り込まれた金融所得課税の引き上げがすでに実施されています。
課税所得を減らすためにも、不動産投資に取り組むなど節税対策を実践しましょう。
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