障がい者支援施設に必要な消防法上の設備・対応とは?違反時の罰則も解説

障がい者支援施設に必要な消防法上の設備・対応とは?違反時の罰則も解説

障がい福祉サービスの開業を考えて、「障がい者支援施設に必要な消防法上の設備や対応を知りたい」と考える方も多いでしょう。

障がい者支援施設を含めた社会福祉施設は消防法において2つに分類され、種類によって消防設備を設置する範囲などが異なるので正しく理解することが重要です。

この記事では、消防法における障がい者支援施設の位置づけや必要設備・対応について解説します。
障がい者支援施設が消防法に違反した場合の罰則も紹介するので、参考にしてください。

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消防法における障がい者支援施設の位置づけ

障がい者支援施設など社会福祉施設の消防法における位置づけは、施設の分類によって異なります。
施設の分類は、以下の2つです。

  1. 6項ロ
  2. 6項ハ

障がい者支援施設は条件によって該当する分類が変化するため、両方の内容をしっかりチェックしましょう。
それぞれの特徴や、障がい者支援施設が該当する場合の条件について解説します。

 

分類①:6項ロ

消防法令上の「6項ロ」に分類されるのは、自力で避難することが困難な方が入所する施設です。
障がい者支援施設以外にも、例えば以下の社会福祉施設は6項ロに該当します。

  • 養護老人ホーム
  • 救護施設
  • 乳児院
  • 障がい児入所施設 など

障がい者支援施設においては、障害の程度が重い者を主として入所させている場合に6項ロと判断されるのが特徴です。
「障害の程度が重い者を主として入所させている場合」とは、障害支援区分4以上の利用者がおおむね8割以上の状態を指します。

なお、障害支援区分とは、必要とする支援の度合いを示した区分のことです。
障害支援区分は厚生労働省令によって1〜6の区分が定められており、数字が高いほど支援の度合いが高くなります。

引用元:総務省消防庁|障害者に係る6項ロ・ハの取扱い概況

 

分類②:6項ハ

消防法令上の「6項ハ」に分類されるのは、6項ロ以外の施設です。

障がい者支援施設においても、6項ロの条件に当てはまらない施設が6項ハに該当します。
例えば、10名の入居者のうち障害者支援区分4以上が9名なら6項ロ、5名なら6項ハの障がい者支援施設です。

また、6項ハには以下の社会福祉施設も含まれます。

  • 老人デイサービスセンター
  • 更生施設
  • 保育所
  • 児童発達支援センター など

6項ロとハの違いや判断基準を理解したら、次の章で解説する消防法で定められた障がい者支援施設の必要設備をチェックしましょう。

障がい者施設だけではなく高齢者施設も選択肢に入れている方は、比較的運営しやすいサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の記事も参考にしてください。

【関連記事】サ高住経営で失敗する要因とその対策方法をわかりやすく解説

 

【一覧表】消防法で定められている障がい者支援施設の必要設備

消防法で定められている障がい者支援施設の必要設備を、6項ロを例に紹介します。
6項ロに該当する障がい者支援施設に必要な設備は、下表の通りです。

種類 必要な設備
6項ロに該当するすべての施設 1.消火器
2.自動火災報知機
3.火災通報装置
4.スプリンクラー設備
5.誘導灯
6項ロに該当かつ一定条件を満たす施設 1.屋内消火栓設備
2.漏電火災警報器
3.非常警報設備
4.避難器具

それぞれの設備について、設置が必要になる条件など概要を解説します。
なお、6項ハの場合は要件が異なるので、注意してください。

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すべての障がい者支援施設に必要な設備

6項ロに該当するすべての障がい者支援施設に必要な設備は、以下の5つです。

  1. 消火器
  2. 自動火災報知機
  3. 火災通報装置
  4. スプリンクラー設備
  5. 誘導灯

いずれも設置が義務づけられた設備なので、しっかり確認しましょう。

 

設備①:消火器

6項ロに該当する障がい者支援施設のすべてで、延べ床面積に関係なく消火器の設置が義務付けられています。
消火器を設置する数は、施設の延べ床面積や構造によって異なるのが特徴です。

消火器には種類ごとに消火能力を表す単位が決められており、施設全体に必要な消火能力単位を満たすように本数を決めます。
施設全体に必要な消火能力単位を求める計算式は、以下の通りです。

必要能力単位=延べ面積÷算定基準面積

なお、算定基準面積は施設の種類によって異なり、障がい者支援施設は下表のように定められています。

構造 基準面積
非耐火構造 100m²/1単位
耐火構造 200m²/1単位

例えば、600m²の耐火構造の障がい者支援施設に、消火能力単位2の消火器を設置する場合に必要な本数は以下の通りです。

600m²÷100m²÷2=3本

ただし、電気設備がある場合など条件によってはさらに消火器を必要とするため、注意してください。

 

設備②:自動火災報知機

6項ロに該当する障がい者支援施設では延べ床面積などに関わらず、自動火災報知機の設置が必須です。

自動火災報知機とは、熱や煙が発生した際に感知器が受信機に火災の発生区域を表示させたり、警報により建物内の人に火災発生を知らせたりする装置を指します。
自動火災報知機を構成する装置は、以下の通りです。

  • 受信機
  • 発信機
  • 中継器
  • 表示灯
  • 地区音響装置
  • 感知器

各装置は建物の構造や高さなどによって種別・設置面積が変わるため、建物を設計する段階から気を配る必要があります。
また、「通信機器室では床面積500m²以上で設置する」など、部分的な条件もあるので注意しましょう。

 

設備③:火災通報装置

火災通報装置とは火災通報ボタンを押したり、自動火災報知設備と連動させたりすることで、電話回線を使用して119番通報する設備です。

6項ロに該当する障がい者支援施設では、2013年の法改正により自動火災報知設備に連動して通報する火災通報装置の設置が義務付けられています。
火災通報装置を電話機で代替する緩和措置があるものの、障がい者支援施設をはじめとした6項ロの施設は対象外なので注意してください。

また、設置後も回線方式や通報メッセージを変更する場合には、消防署に対して事前に相談・届出が必要になります。

 

設備④:スプリンクラー設備

6項ロに該当する障がい者支援施設は、原則スプリンクラー設備の設置が必須です。
以前は「延べ床面積275㎡以上でスプリンクラー設備を設置」と定められていましたが、2013年の法改正によって面積に関係なく設置が義務付けられました。

ただし、以下の条件をすべて満たす障がい者支援施設は、スプリンクラー設備の設置が免除されています。

  • 介助がなければ避難ができない者が利用者の8割を超えない
  • 施設の延べ面積が275㎡未満である

ご自身の施設にスプリンクラー設備を設置する必要があるか判断に迷う場合には、消防署に相談しておくと安心です。
なお、スプリンクラーの設置個数は、施設の延べ床面積や高さによって異なる点にも注意しましょう。

 

設備⑤:誘導灯

障がい者支援施設など6項ロに分類される施設はもちろん、多くの人が集まる施設では誘導灯の設置が義務付けられています。

誘導灯とは、火災などで停電した際に誘導音や点滅によって経路を示す照明器具のことです。
なお、誘導灯には主に2種類あり、下表の通りとなります。

内容 設置場所
避難口誘導灯 避難できる出入り口であることを示す 避難口の上部または、その直近の避難上有効な場所
通路誘導灯 避難する方向を示す 廊下や階段など避難上の設備がある場所

誘導灯における表示面の寸法や明るさなどは消防法にてA〜C級に分類されており、法令を遵守して設置する必要があります。
障がい者支援施設の場合は、C級以上の避難口誘導灯・通路誘導灯の設置が必須である旨を覚えておきましょう。

 

条件を満たす障がい者支援施設に必要な設備

6項ロに該当して一定の条件を満たす障がい者支援施設に必要な設備は、以下の4つです。

  1. 屋内消火栓設備
  2. 漏電火災警報器
  3. 非常警報設備
  4. 避難器具

ご自身が検討している施設の仕様と照らし合わせながら、チェックしましょう。

 

設備①:屋内消火栓設備

建物の構造などによって異なるものの、原則6項ロに分類される施設で延べ床面積700㎡以上の場合には屋内消火栓設備の設置が必要となります。

屋内消火栓設備とは、初期消火を目的として建物内に消火ポンプやホースなどを配置した消火設備のことです。
6項ロの施設における屋内消火栓設備の設置基準は、下表の通りとなります。

構造 設置基準の延べ床面積
①準耐火構造+内装制限 1,400m²または基準面積1,000m²のうち、いずれか小さい方
②耐火構造+内装制限 2,100m²または基準面積1,000m²のうち、いずれか小さい方
③①と②以外の場合 700㎡以上

上記は一般的な基準であり、地階・無窓階・4階以上の階は別の基準があるため注意してください。

 

設備②:漏電火災警報器

延べ床面積300㎡以上の6項ロに該当する障がい者支援施設では、漏電火災警報器の設置が義務付けられています。
条件に当てはまる障がい者支援施設では、契約電流容量が50アンペアを超える漏電火災警報器の装置が必要です。

漏電火災警報器とは、屋内電気配線や電気機器での漏電を早期に検出し警報する設備で、「交流器」と「受信機」の主に2つから構成されています。
漏電火災警報器は湿度の高い場所や温度変化の激しい場所などへの設置が認められていないので、建物の設計時には気をつけましょう。

 

設備③:非常警報設備

6項ロに該当する障がい者支援施設では、収容人数によって異なるものの50人以上の施設で非常警報設備を設置する義務が発生します。
非常警報設備とは、以下の3つです。

  1. 非常ベル
  2. 自動式サイレン
  3. 放送設備

収容人数による非常警報設備の組み合わせは、下表の通りとなります。

非常警報設備 階層 収容人数
非常ベル・自動式サイレンまたは放送設備 一般 50人以上
地階・無窓階 20人以上
非常ベル・放送設備または自動式サイレン・放送設備 一般 300人以上

また、地階を除く階数が11以上もしくは地階の階数が3以上の施設の場合にも、非常ベル・放送設備または自動式サイレン・放送設備の設置が必要です。

 

設備④:避難器具

6項ロに分類される障がい者支援施設において、避難器具は2階以上の階もしくは地階の収容人員20人以上の場合に設置する必要があります。

避難器具とは、火災などが起きた場合に脱出するために使用するアイテムです。
階段で避難できれば問題ありませんが、深夜など就寝の時間帯に火災が発生して逃げ遅れた場合などに利用します。
主な避難器具は、以下8つです。

  1. 避難はしご
  2. 救助袋
  3. 緩降機(かんこうき)
  4. 避難橋
  5. 滑り台
  6. 避難用タラップ
  7. すべり棒
  8. 避難ロープ

必要な数は収容人数に対して、100人以下の場合は1個、100人を超える場合は100人ごとに1個の数を備え付けましょう。

 

障がい者支援施設で必要な消防法上の対応

障がい者支援施設で必要な消防法上の対応は、以下の5つです。

  1. 防火管理体制の構築
  2. 消防計画の策定
  3. 消防訓練の実施
  4. 消防設備の点検
  5. 備品の防火処理

加えて、障がい者支援施設を建てる際には、建物が建築基準法に適合していることも必須条件となります。
障がい者支援施設の建築基準法についてもっと知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。

【関連記事】障がい福祉サービスと建築基準法|法的位置づけや適合が必要な規定など

 

対応①:防火管理体制の構築

障がい者支援施設をはじめとして多くの人が集まる施設では、消防法で防火管理体制を構築することが定められています。
具体的には以下の2点を決める必要があり、かつ消防署への届け出が原則必要です。

  1. 防火管理責任者
  2. 消防計画

防火管理責任者とは、火災による被害を防ぐために防火管理上必要な業務を計画的に実施する責任者を指します。
障がい者支援施設で防火管理責任者の選任が必要な施設は、下表の通りです。

種類 防火管理責任者の選任が必要な施設
6項ロ 収容人員10人以上
6項ハ 収容人員30人以上

また、防火管理責任者は「防火管理講習修了者」など特定の資格が必要であり、無資格では選任できません。

 

対応②:消防計画の策定

障がい者支援施設では火災の予防や発生時の被害を抑えることを目的として、消防計画を策定する必要があります。
加えて、前述したように消防計画は消防署へ提出する義務があり、重要なポイントの1つです。

消防計画では、主に以下の内容を記載します。

  • 自衛消防組織
  • 火災予防上の自主検査
  • 消防用設備などの点検や整備
  • 避難通路や避難口
  • 定員の遵守 など

誰でも取り組めるように計画は具体的でわかりやすく、実行しやすい内容であることが重要です。
自治体の消防署で計画のサンプルを用意しているケースもあるので、参考にしながら作成するとスムーズに進められるでしょう。

 

対応③:消防訓練の実施

防火管理責任者を配置した障がい者支援施設では、基本的に年2回以上の消防訓練を実施する義務があります。
障がい者支援施設における消防訓練の種類と実施回数は、下表の通りです。

種類 内容 回数
消火訓練 消火器の取り扱いなど 年2回以上
避難訓練 避難誘導や避難器具の取り扱いなど 年2回以上
通報訓練 消防機関に通報する 消防計画に定める回数

年間計画を策定時に盛り込んで実施するなど、通常業務が忙しい場合でも必ず実施できるように工夫しましょう。
また、毎回同じ内容で訓練しても従業員の対応レベルは上がらないので、徐々に訓練内容の難易度を上げることも重要です。

 

対応④:消防設備の点検

障がい者支援施設における消防設備の点検・報告は下表のように、消防法で定められています。

内容 頻度
消防用設備の点検 年2回
消防署への報告 年1回

点検する設備は消火や警報に関する設備はもちろん、電源などの確認も含まれます。

また、年1回は設備を実際に作動させて、総合点検を実施することも大切です。
総合点検を実施することで電源が入らないなど不具合を発見できるため、基準をクリアしているかを確かめられます。

消防設備の点検・報告については6項ロ・ハに関係なく、定期的に実施しましょう。

 

対応⑤:備品の防火処理

火災が発生した場合に被害を最小限に抑えるため、障がい者支援施設では燃えにくい「防炎物品」の使用が消防法で定められています。
防炎物品の使用を義務づけた規制を「防炎規制」と呼び、対象は以下の通りです。

  • カーテン
  • 布製ブラインド
  • じゅうたん など

防炎物品は外見からは防炎性能があるか判断できないので、「防炎表示」のラベルをつける必要があります。
法令遵守はもちろんですが、カーテンなどに火がつくと一気に燃え広がる可能性が高く、安全性の観点からも防火処理を施すことが重要です。

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障がい者支援施設が消防法に違反した場合の罰則

障がい者支援施設が消防法に違反した場合の罰則は、主に以下の2つです。

  1. 罰金などが課せられる
  2. 違反対象物として公表される

罰則を受けると社会的な評価が低くなるので、しっかりと法令を守りましょう。

 

罰則①:罰金などが課せられる

障がい者支援施設が消防法に違反した場合は下表のように、罰金などのペナルティが科されます。

命令条文 命令違反概要 罰則の内容
第4条第1項 資料提出の命令に従わなかった場合、報告の徴収などを拒否した場合 30万円以下の罰金または拘留
第8条第2項 防火管理者の選任・解任の届出を怠った場合
第8条の2の2第1項 防火対象物の点検結果を報告せず、または虚偽の報告をした場合 30万円以下の罰金または拘留

両罰:本条の罰金

第8条の3第3項 防炎性能を有するもの以外に指定表示、またはこれと紛らわしい表示をした場合
第17条の3の3 消防用設備などの点検結果を報告せず、または虚偽の報告をした場合

「両罰:本条の罰金」とは両罰規定のことで、従業員や役員などの個人が違法行為をした場合、個人と法人の両方が罰せられます。
金銭的はもちろん社会的な損失にもつながるため、業務が多忙な場合でも忘れずに届出や報告をしましょう。

引用元:一般財団法人日本消防設備安全センター|消防法の命令違反概要・罰則規定一覧

 

罰則②:違反対象物として公表される

消防法によって定められた設備が設置されていないと、施設名などが違反対象物として公表されます。
公表の対象となる設備は、以下の通りです。

  • 屋内消火栓設備
  • スプリンクラー設備
  • 自動火災報知設備

上記の設備が設置されていない場合、以下の内容が市町村または消防本部のホームページで公表されます。

  • 施設名
  • 施設の住所
  • 対象となる違反

立入検査の結果から一定期間経過しても改善されない場合に違反が公表されるので、指摘を受けたら速やかに対応しましょう。

 

まとめ:障がい者支援施設は消防法に即した対応が常に必要

障がい者支援施設の消防設備は消防法で細かく定められており、法令に即した対応が必要です。
6項ロもしくはハのどちらに分類されるかによっても、設置すべき消防施設が異なるためご自身の施設がどの種類に該当するか確認しましょう。

障がい者支援施設が消防法に違反した場合には罰則を受ける可能性があり、社会的な評価を下げる原因にもなるので注意してください。

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この記事の監修者

西尾 陽平
西尾 陽平
役職
土地活用事業部 執行役員
保有資格
資産形成シニアコンサルタント、2級ファイナンシャル・プランニング技能士

大学卒業後同社へ入社し、地主さんの土地活用という資産形成や節税を実践で学び、現在は土地のない方へ、土地から紹介し不動産の資産形成の一助を行っている。実践の中で身に付いた視点で、分かりやすく皆様に不動産投資のあれこれをお伝えしています。