金融所得課税とは?日本と海外を比較!最新の動きや引き上げのリスクも解説
金融所得課税は、金融商品で得た売却益や配当金などの利益にかかる税金です。
日本だけではなく海外でも取り扱われており、国ごとに異なった制度となっています。
日本国内では2025年に金融所得課税の引き上げとして、富裕層課税制度がはじまります。
今後も課税強化の対象とされており、資産運用するうえで知っておくべき税金の1つです。
この記事では金融所得課税とは何か、課税対象や通常の所得税との違いを解説します。
これまでの変遷や日本と海外との比較はもちろん、課税強化によって起こり得るリスクもあわせて紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
金融所得課税とは
金融所得課税の基礎知識として、以下の3つを解説します。
- 課税の対象
- 課税方式
- 累進課税制度との違い
それぞれ詳しく見ていきましょう。
課税の対象
金融所得課税は以下をはじめ、金融商品から得られる利益が主な課税対象になります。
- 利子
- 配当金
- 株式の譲渡益 など
給与所得などとは異なり、特別な課税方式が適用される所得です。
金融商品の種類や概要について振り返りたい方は、以下の記事もあわせてチェックしてみてください。
【関連記事】金融資産とは?純金融資産との違いや種類・日本人の保有額をわかりやすく解説
課税方式
金融所得課税の課税方式は、以下の3つです。
- 申告分離課税
- 総合課税
- 申告不要
申告分離課税は、株式の譲渡損益や配当所得を課税対象とします。
税率は、一律20.315%(所得税15%₊住民税5%₊復興特別所得税0.315%)です。
他の所得と合算されずに独立して課税されます。
また、総合課税は配当所得などに適用される課税方式です。
他の所得と合算したうえで課税対象になり、累進課税が適用されます。
所得が多いほど高くなる税金です。
申告不要とは、利子所得が対象ですが、受け取る前に自動的に源泉徴収されるため、確定申告が不要になります。
累進課税制度との違い
金融所得課税と累進課税制度は下表のように、税率が異なります。
課税される所得金額 | 所得税 | 金融所得にかかる所得税 |
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 20.315% |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | |
40,000,000円以上 | 45% |
金融所得課税は金利所得のみに適用される所得税であり、税率が一律20%です。
どれほど金融所得が高くなっても税率が変わらないため、金融所得が高いほど課税負担が減少します。
一方、累進課税制度は広範囲の所得に対して適用される所得税であり、税率が5%から最大で45%です。
課税される所得金額が高くなるほど、税率も高くなるため、課税負担が増加します。
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所得税の基礎知識や節税方法について学びたい方は、以下の記事もあわせてチェックしましょう。
【関連記事】所得税は節税できる?サラリーマンでもできる節税方法9選を紹介!
引用元:国税庁|所得税の税率
【比較表】日本と海外の金融所得課税
日本と海外の金融所得課税額の比較表は、下表のとおりです。
日本 | アメリカ | イギリス | ドイツ | フランス | ||
キャピタルゲイン | 株式譲渡益 | 申告分離課税 20.3% |
・12ヶ月超保有の場合 申告分離課税₊総合課税 7.1〜34.8% ・12ヶ月以下保有の場合 総合課税 17.1〜51.8% |
申告分離課税(段階的課税) 10%、20% |
申告不要(源泉徴収) 26.4% ※総合課税(選択可) 26.4% 26.4% |
申告分離課税 12.8% または 総合課税 0〜45% |
インカムゲイン | 配当 | 申告分離課税 20.3% または 総合課税 (上場株式の配当) 10〜55% |
申告分離課税₊総合課税 7.1〜34.8% |
申告分離課税(段階的課税) 8.8%、33.8%、39.4% |
||
利子 | 申告分離課税 20.3% |
総合課税 17.1〜51.8% |
申告分離課税(段階的課税) 0%、20%、40%、45% |
|||
その他 | 損失繰越 | 3年間 | 無期限 | 無期限 | 無期限 | 10年間 |
給与所得にかかる所得税(国税) | 総合課税 55.9% |
総合課税 51.8% |
総合課税 45% |
総合課税 47.5% |
総合課税 45% |
各国の詳細について見ていきましょう。
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引用元:財務省|主要国における給与所得課税と金融所得課税の概要
海外の金融所得課税①:アメリカ
アメリカの株式譲渡益と配当は、税率7.1%〜34.8%です。
利子に対する課税は、17.1%〜51.8%と高くなります。
株式は1年を超えて保有したかどうかで売却して得た利益に対する税率が異なる設定です。
1年以下で株式売却した株式譲渡益は国税にあたる連邦税として、最低17.1%になります。
日本の税率と比較した際、かなり低い場合もあれば、高くなる場合もある税率です。
海外の金融所得課税②:イギリス
イギリスの金融所得課税において、株式譲渡益の税率は全体の所得のうち34,500英ポンドを基準に決まります。
最低10%、最高20%で高くても日本とほぼ同じ税率です。
配当と利子の税率に関しては、アメリカ同様に日本より低い場合と高い場合があります。
海外の金融所得課税③:ドイツ
ドイツの金融所得課税は、日本同様に一律で税率26.4%です。
申告不要適用時より納税者が有利になる場合は、総合課税を適用できます。
申告した結果が納税者に不利になった場合は、申告がなかった扱いとなり申告不要時の扱いとなり安全です。
海外の金融所得課税④:フランス
フランスでは金融所得に対して分離課税と総合課税を選択できます。
分離課税は一律12.8%であるが必ず社会保障税17.2%が適用されるため、合計で税率30%です。
総合課税を選択した場合、他の所得と合算でき累進課税が適用され最高税率45%になります。
金融所得課税と「1億円の壁」問題
「1億円の壁」とは、年間所得が1億円を超えると税負担率が低下する現象です。
金融所得課税が金融所得に対して、一律20%の税率を適用しているため生じています。
高所得者である富裕層になるほど、所得に占める金融所得の割合が多く、累進課税が適用される給与所得よりも税負担が軽くなる状態です。
この結果、所得が1億円を超えるラインで税負担率が下がる傾向が見られます。
「1億円の壁」は税負担の公平性欠如から、問題化して議論されてきました。
問題の格差是正のため、2025年から「富裕層ミニマムタックス」が導入されます。
富裕層に対する最低税負担の導入であり、富裕層の税負担の適正化が図られるでしょう。
日本国内における金融所得課税の変遷
金融所得課税は令和5年度の税制改正により、高所得者に対する課税強化が図られることになりました。
ここでは金融所得課税の変遷や今後の動きとして、以下の3つを解説します。
- 過去の増税・減税
- 引き上げ決定の背景
- 最新の動き
それぞれ詳しく見ていきましょう。
過去の増税・減税
株式譲渡所得税制の移り変わりを例に、金融所得課税における過去の増税と減税を見ていきます。
株式譲渡所得税制とは、株式を売却で得られる譲渡益に対して課税される仕組みです。
1989年に非課税から課税対象となって以降、税率は増税と減税を繰り返してきました。
年 | 税率(※復興特別所得税は除く) | 増減 | 内容 |
1989年 | 26% | 増税 | 株式譲渡益が課税対象へ |
2003年 | 10% | 減税 | 軽減税率を適用 |
2014年 | 20% | 増税 | 軽減税率が終了し、元の税率へ |
2003年は日本政府による「貯蓄優遇から投資優遇へ」の政策の一環により軽減税率を適用した変更です。
2014年は、軽減税率の終了に伴う増税でした。
このように、金融所得課税は経済状況や政策に応じて税率が変更されています。
引き上げ決定の背景
金融所得課税の引き上げ決定の背景には、以下の要因があります。
- 2023年の改正内容
- 財政健全化に向けた取り組み
- 少子高齢化対策
- 「1億円の壁」による格差是正
- 税負担の公平性を確保
2023年は株価低迷などから株式市場の混乱を避けるため、改正内容が小規模で効果が薄く限定的でした。
コロナ禍での景気支援策で多くの予算を消化して悪化した財政を回復するため、健全化に向けて取り組みます。
また、社会や経済の課題に対する少子化対策が必要であり、社会保障費をはじめ財源の確保が必要です。
そのため、格差が引き起こされている状況を是正する目的で、金融所得課税の引き上げが決定された経緯があります。
最新の動き
今後は、金融所得課税の強化が進められる可能性が大いにあります。
石破首相は、首相就任前の2024年9月2日放送のテレビ番組にて金融所得課税の強化を「実行したい」と発言していました。
これまで検討されていた主な見直し案は、以下のような内容です。
- 総合課税方式に加えて累進課税の対象とすること
- 申告分離課税方式により税率を引き上げること
一方で、10月7日の衆院代表質問では「現時点で、具体的に検討することは考えていない」と述べています。
すぐに具体化する状況ではありませんが、今後の金融所得課税の強化が進展することが期待されます。
引用元:
・日本経済新聞社|9月2日日本経済新聞
・ロイター|10月7日ロイター通信
金融所得課税の強化で起こり得るリスク
金融所得課税が強化されて起こり得るリスクは、主に以下の3つです。
- 国内の資金が海外に流れてしまう
- 投資離れが起きる
- 有能な人材の海外移住が進む
それぞれの内容を見ていきましょう。
リスク①:国内の資金が海外に流れてしまう
富裕層が租税回避のために、国内資産を海外資産に移す可能性があります。
代表的な方法は、以下のとおりです。
- 海外法人の設立
- 海外不動産投資
- タックスヘイブン口座の利用
租税回避地であるタックスヘイブンに法人を設立して、国内資産を法人名義に変更する方法です。
タックスヘイブンとは、税率が0または極めて低い国や地域のことです。
海外法人の名義に変更することで、国内課税を回避します。
また、海外の不動産は課税対象になりにくいため、海外の不動産物件を購入しようと模索することが考えられます。
タックスヘイブンで口座を開設し、資産を国内口座から送金して移すことで国内の税務署からの監視を避ける方法です。
実際に租税回避が問題となった事例として、「武富士事件」が挙げられます。
大手消費者金融業者である武富士の創業者一族が、相続税対策に会社株式を海外へ移した事件です。
相続税を回避するためにオランダ法人へ国内株式を移転して所有していました。
国内税務当局は訴訟を起こしましたが、最終的に税務当局が敗訴し、相続税を徴収できなかった結果になっています。
海外不動産で主な国の利回りや特徴をチェックしたい方は、こちらの記事もあわせて参考にしてください。
【関連記事】不動産投資の利回りとは?平均や理想の数値・最低ラインを解説|計算方法も
リスク②:投資離れが起きる
政府が個人の資産運用を促進しているなかで、新NISAやiDeCoなどの制度を通じて資産形成を後押ししています。
そのため、金融所得課税の強化は投資離れにつながりかねないと考える方も多いでしょう。
とはいえ、金融所得課税の強化は富裕層に対してであり、政府が資産運用促進の対象としている中間層には限定的な影響です。
2024年から導入された新NISAの導入により非課税の枠が大幅に拡大され、利用数が伸びてきているため、投資意欲は衰えないでしょう。
新NISAで変わったところやメリットについて知りたい方は、こちらの記事もあわせてチェックしてみてください。
【関連記事】新NISAで上限が見直された4項目|メリットや注意すべき人の特徴も解説
リスク③:有能な人材の海外移住が進む
富裕層が租税回避を目的に海外に資産を移動することで、富裕層となり得る有能な人材の海外移住が進む可能性があります。
日本での課税回避はできても、現地での課税可否は免れません。
日本より海外の税率が高い可能性があるため、多くの人材が移住するとは考えにくく、大きなリスクにはなり得ないでしょう。
多くの国では、日本以上に富裕層に対しても一定の税負担が課せられるため、移住したとしても完全に税金を回避できるわけではありません。
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日本国内で正しく節税すれば、金融所得課税の強化による課税負担を軽減することが可能です。
海外に目を向けて行う節税より国内でできる節税の方が、安全に行えるため、リスクが低くなります。
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まとめ:金融所得課税は日本・海外間に大きな差がある
日本の金融所得課税は、アメリカやイギリスなどの海外と比較して低い税率です。
金融所得課税が起因している1億円の壁は、大きな課題です。
今後、金融所得課税の強化が進む可能性があるため、税負担が増えても耐えられるように資産形成の力を強くしていくことも大事です。
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