障がい者グループホームの経営は良好?実態やシミュレーション・落とし穴も

障がい者グループホームの経営は良好?実態やシミュレーション・落とし穴も

障がい者グループホームとは、障がいや病気を理由に自力で生活するのが難しい方が、必要な支援やサポートを受けながら、共同で過ごす住居のことです。
近年は、サービスを必要とする方の数が増え、障がい者グループホームの経営が注目を集めています。

この記事では、障がい者グループホームの経営状況や収支内訳を解説します。
運営における落とし穴や回避法もまとめているので、障がい者グループホームの経営を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。

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障がい者グループホームの経営は赤字?黒字?

障がい者グループホームは、他の障がい福祉サービスよりも黒字施設が多い傾向にあります。
下表の通り、2019年における赤字施設の割合は5割を下回っており、2020年に至っては3割弱まで減少しました。

赤字施設の割合 2019年 2020年
介護サービス包括型 36.3% 34.0% −2.3%
日中サービス支援型 58.8% 35.3% −23.5%
外部サービス利用型 38.3% 43.4% 5.0%
平均 44.5% 28.2% −16.3%

サービス類型によって差があるものの、障がい者グループホームは経営が安定している事業所が多いことが分かります。

引用元:独立行政法人福祉医療機構|令和4年2021年度共同生活援助に関するアンケート調査および2020年度の運営状況

 

【サービス類型別】障がい者グループホームの経営状況

厚生労働省の調査によると、障がい者グループホームにおける2022年度の収支差率(※)は、全サービスの平均で5.3%でした。
※一般企業における「利益率」とほぼ同じ意味で使われる用語

3つのサービス類型別に見ると、それぞれで収支差率が異なります。

  1. 介護サービス包括型
  2. 日中サービス支援型
  3. 外部サービス利用型

各サービスの経営状況を詳しく見ていきましょう。
なお、障がい者グループホームの種類について詳しく知りたい方は、こちらの記事もチェックしてください。

【関連記事】障がい者グループホームとは?物件・サービス別の種類や利用傾向も解説

引用元:厚生労働省|令和5年障害福祉サービス等経営実態調査結果

 

経営状況①:介護サービス包括型

介護サービス包括型障がい者グループホームにおける収支差率は、下表の通りです。

2022年度決算 2021年度決算 2020年度決算
収入 4,169万円 100% 4,690万円 100.0% 4,211万円 100.0%
支出 3,789万円 90.9% 4,419万円 94.2% 4,063万円 96.5%
収支差率 380万円 9.1% 271万円 5.8% 149万円 3.5%

経営の観点では、ほかの2種類と比べて最も収支差率が良く、収益性が高いサービス類型だといえます。

2022年度決算における収支差率の平均は9.1%と比較的高い数字ですが、分布を見ると事業所によって差があります。
分布としては収支差率20〜25%がボリュームゾーンですが、次いで−10〜−5%の赤字経営となっている事業所も多い状況です。

引用元:厚生労働省|令和5年障害福祉サービス等経営実態調査結果

 

経営状況②:日中サービス支援型

日中サービス支援型の障がい者グループホームにおける収支差率は、下表の通りです。

2022年度決算 2021年度決算 2020年度決算
収入 5,824万円 100% 5,036万円 100.0% 4,614万円 100.0%
支出 5,606万円 96.2% 4,688万円 93.1% 4,313万円 93.5%
収支差率 219万円 3.8% 348万円 6.9% 302万円 6.5%

日中サービス支援型における2022年度決算の収支差率は、前年度から3.1%減少しています。
なお、収支差率の平均は3.8%とプラスの数値ですが、分布としては、−25〜−20%がボリュームゾーンです。
一方で、30〜35%、35〜40%の分布も多いため、事業所間で経営状況に差があることが分かります。

なお、弊社ゴールドトラストでは、重度の障がいを持っている方に寄り添った「日中サービス支援型グループホーム」を提案しております。
障がい者グループホームの運営や新設に興味のある方は「障がい者福祉施設の運営支援・建設ページ」をご覧ください。

引用元:厚生労働省|令和5年障害福祉サービス等経営実態調査結果

 

経営状況③:外部サービス利用型

外部サービス利用型の障がい者グループホームにおける収支差率の推移は、下表の通りです。

2022年度決算 2021年度決算 2020年度決算
収入 1,619万円 100% 2,097万円 100.0% 2,032万円 100.0%
支出 1,6,02万円 98.9% 1,928万円 92.0% 1,897万円 93.3%
収支差率 17万円 1.1% 169万円 8.0% 135万円 6.7%

2022年度決算における収支差率の平均は1.1%と、他のサービスに比べて最も低い数字ですが、分布としては25〜30%がボリュームゾーンです。

また、収支差率が10%以上から30%未満の事業所が多い一方で、−90〜−85%や−85%〜−80%など、深刻な赤字経営に陥っているところも少なくありません。
その結果、外部サービス利用型の収支差率は平均値が引き下げられていると推測されます。

引用元:厚生労働省|令和5年障害福祉サービス等経営実態調査結果

 

障がい者グループホームの経営で押さえておきたい収支内訳

障がい者グループホームを経営するうえで押さえておきたいのが、以下2つの内訳です。

  1. 収入の内訳
  2. 支出の内訳

それぞれ詳しく見ていきましょう。

 

収入の内訳

障がい者グループホームの経営における収入の内訳は、以下の3つに大別できます。

  1. 基本報酬
  2. 各種加算
  3. その他

障がい者グループホームの基本報酬や加算は、サービスの類別やスタッフの配置などによって単価が変化するのが特徴です。

 

内訳①:基本報酬

障がい者グループホームにおける1日あたりの報酬は、「基本報酬(単位数)×人数×地域区分」で算出されます。

基本報酬は金額ではなく単位数で定められており、利用者に対して介護サービスを提供した対価として、国から障がい者グループホームに支払われます。
サービス類型別に決められた単位は、下表の通りです。

サービス類型 単位数
介護サービス包括型 171〜600単位
日中サービス支援型 524〜997単位
外部サービス利用型 115〜171単位

基本報酬はサービスの内容や利用者の要介護度によって段階的に定められているため、単位数に幅があります。

また、地域区分とは、事業所が所在する地域の人件費や家賃をふまえたうえで、報酬の公平性を保てるよう設けられた調整費のことです。
各市区町村を1〜7級地とその他の計8つに分類したもので、それぞれ10円前後の単価です。

なお、介護報酬と地域区分は3年ごとに見直しされるため、必要に応じて最新の情報を確認してください。

 

内訳②:各種加算

障がい者グループホームにおける収入の内訳に、加算があります。
サービスの提供体制や利用者の状況などに応じて報酬が上乗せされる仕組みです。
例えば、提供するサービスの充実を図る、入居者の障がい支援区分が高いといった場合には、加算によって報酬が増えます。

障がい者グループホームで算定できる主な加算は、以下の通りです。

  • 夜間支援等体制加算
  • 人員配置体制加算
  • 医療連携体制加算 など

加算の算定要件を満たすと収入を増やせる一方で、手続きが大変だったり、人件費が増して売上につながらなかったりするケースもあります。
開業直後は、最低限として、夜間支援等体制加算を押さえておくとよいでしょう。

 

内訳③:その他

障がい者グループホームの経営においては、以下のような収入もあります。

  • 融資
  • 補助金
  • 助成金
  • 利用者の実費負担

障がい者グループホームの経営は社会貢献度が高い事業であるため、土地活用を含め、さまざまな補助金や助成金制度を利用できます。
各自治体に窓口が設置されているので、障がい者グループホームの経営を検討する際は、一度相談すると良いでしょう。

また、入居者から支払われる食費や光熱費などは実費であるため、収入に対して支出は同額もしくはマイナスになるのが基本です。

 

支出の内訳

障がい者グループホームの経営における支出の内訳は、以下の3つに大別できます。

  1. 人件費
  2. 水光熱費
  3. その他

発生した売上から支出を引いた額が、障がい者グループホームの利益です。
それぞれの支出について、詳しく見ていきましょう。

 

内訳①:人件費

障がい者グループホームの経営において、支出の半分以上を占めるのが人件費です。
職種別の平均給与(常勤)は、下表の通りです。

介護サービス包括型 日中サービス支援型 外部サービス利用型
施設長・管理者 33.0万円 34.4万円 30.4万円
サービス管理責任者 29.4万円 31.5万円 29.5万円
生活支援員 25.1万円 24.6万円 26.7万円
世話人 20.5万円 19.3万円 19.7万円

障がい者グループホームの運営にあたっては、サービス類型ごとに必要な人員配置基準が定められています。
特に、小規模の障がい者グループホームでは人件費負担が大きくなる傾向にあるため、事前にしっかりとシミュレーションしておくことが大切です。

引用元:厚生労働省|令和5年障害福祉サービス等経営実態調査結果

 

内訳②:水光熱費

毎月の水光熱費も、障がい者グループホームの経営に欠かせない支出です。
グループホームの規模や種類によって、実際の水光熱費や負担方法は異なりますが、一般的には支出全体のおよそ2〜3割ほどを占めています。

なお、水光熱費や日用品などは基本的に利用者から徴収できますが、国が定めているように、実費を上回った余剰分は返還する必要があります。

 

内訳③:その他

障がい者グループホームの経営におけるその他の支出は、以下の通りです。

  • 家賃(賃貸物件の場合)
  • 車両の購入および維持費
  • コンサルティング費用
  • 広告費用 など

賃貸物件で障がい者グループホームを経営する場合は家賃が発生しますが、費用の一部は利用者から徴収できます。
他にも、必要に応じて通信費や保険料といった支出も発生します。

なお、障がい者グループホームの経営において、物件購入と賃貸のメリットとデメリットを知りたい方は、こちらの記事もチェックしてください。

【関連記事】障がい者グループホームの設備基準とは?物件は購入と賃貸どちらが良い?

 

障がい者グループホームの経営シミュレーション

障がい者グループホームの経営について理解を深めるため、以下の2つを見ていきましょう。

  1. 収入シミュレーション
  2. 支出シミュレーション

介護サービス包括型を例に解説するので、ぜひ参考にしてください。

 

収入シミュレーション

以下の条件で、障がい者グループホームの収入を算出します。

  • 障がい支援区分4の利用者が6名
  • 人員体制は6:1
  • 外泊者を考慮して算定日数は29日
  • 地域区分は10円
  • 夜間支援等体制加算
  • 利用者から徴収する家賃収入2万円

介護サービス包括型において、「障がい支援区分4」「人員体制は6:1」の場合、1日あたりの基本報酬は372単位です。
従って、1か月あたりの基本報酬は以下のように算出できます。

基本報酬
=報酬単価×利用者数×日数×地域区分※
=372単位×利用者6名×29日×10円
=647,280円

※計算しやすいように10円で統一

次に、夜間支援等体制加算において、「夜間支援対象利用者6人」「障がい支援区分4以上」の場合、1日あたりの加算が224単位です。
同じ計算式に当てはめると、1か月あたりの加算は以下のように算出できます。

夜間支援等体制加算
=報酬単価×利用者数×日数×地域区分
=224単位×利用者6名×29日×10円
=389,760円

利用者から徴収する家賃収入は1人あたり2万円なので、6名で12万円です。
つまり、本シミュレーションにおける収入の合計は、115万7,040円になります。

 

支出シミュレーション

収入シミュレーションに続いて、定員6名の小規模障がい者グループホームを例に支出を見ていきます。
支出シミュレーションにおける人件費の算出条件は、以下の通りです。

人員 人件費(給料)
管理者兼サービス管理責任者(1名) 33万円
生活支援員(非常勤1名) 9万2,000円
世話人(常勤1名) 20万円
世話人(非常勤1名) 8万7,000円

また、以下を経費計上した場合、支出の合計は99万9,000円となります。

  • 家賃 180,000円
  • 通信費 10,000円
  • その他の経費 100,000円

つまり、収支差は以下の通りです。

収支差
=収入-支出
=1,157,040円−999,000円
=158,040円

以上から、収支シミュレーションの着地予想は黒字となりました。

ただし、実際には支払いが増えるなどして、利益が少なくなる可能性も考えられます。
障がい者グループホームの経営にあたっては、法制度をしっかりと理解したうえで、事業計画を作成することが大切です。

 

障がい者グループホームの経営でよくある落とし穴と回避法

障がい者グループホームの経営でよくある落とし穴は、主に以下の3つです。

  1. 人員を確保できない
  2. 利用者が集まらない
  3. なかなか黒字化しない

それぞれの原因と回避するための策を見ていきましょう。

 

落とし穴①:人員を確保できない

障がい者グループホームの経営で多くの事業者が直面するのが、人材確保の課題です。
近年は、障がい者グループホームを含めた介護業界全体で人手不足が深刻化しており、経営を諦めざるを得ない事業者も少なくありません。
人手不足の背景には、高齢化に伴う利用者数の増加や、少子化による労働人口の減少があります。

実際に、障がい者グループホームを経営するためには、利用者30人以下に対し1人以上のサービス管理責任者を配置する必要があるなど、人員基準が明確に定められています。
人員を確保するための対策として、以下を実施しましょう。

  • 働きやすい労働環境を整える
  • 外国人人材の受け入れを進める
  • 複数の採用手法を試みる
  • 資格の取得支援を進める など

人員の入れ替わりが激しいと、提供するサービスの質が安定せず、施設そのものの評判が下がってしまう可能性もあります。
採用スケジュールに余裕を持ち、質の高い人材確保に努めることが大切です。

 

落とし穴②:利用者が集まらない

障がい者グループホームの経営でよくある落とし穴として、利用者が集まらないことが挙げられます。
利用者が集まらなければ、障がい者グループホームの経営は成り立ちません。

障がい者グループホームの数は、現在不足している状況です。
しかし、事前のマーケティングやリサーチを怠ると、「近隣に必要とする人が少ない」「交通の便が悪く、家族が通いづらい」などの理由で、利用者が集まらないリスクも考えられます。

営業活動は、障がい者グループホームをはじめとする社会福祉施設でも必要です。
サポートを必要としている方に施設の存在を知ってもらえるよう、以下の方法による営業活動も検討してみてください。

  • パンフレットや広告を用意する
  • 地域住民との交流の場を設ける
  • SNSを活用する

また、利用者1人ひとりの障がいの特性に応じた支援を提供できるよう、質の高いスキルを身につけることも、満足度の向上や口コミにつながるでしょう。

 

落とし穴③:なかなか黒字化しない

なかなか黒字化できないことも、障がい者グループホームの経営における落とし穴の1つです。
独立行政法人福祉医療機構の調査によると、黒字施設は赤字施設と比べて、以下のような傾向が見られます。

  • 利用率が高い
  • 利用者単価が高い
  • 世話人配置基準が高い

世話人配置基準が高いということは、基本報酬が高くなるだけではなく、重度障がい者や高齢者を含めた利用者の確保にもつながります。
経営の黒字化に向けて収益を増やすためにも、まずは人材確保に努め、より手厚いサービスを提供していく体制を整えることが大切です。

引用元:独立行政法人福祉医療機構|令和4年2021年度共同生活援助に関するアンケート調査および2020年度の運営状況

 

まとめ:障がい者グループホームは黒字経営が期待できる

障がい者グループホームは全体的に赤字施設のほうが少なく、多くの事業者が黒字経営を続けています。

しかし、経営次第では、人手不足や利用者減少といった課題を前に、安定した経営を続けるのが難しくなるケースも少なくありません。
障がい者グループホームを経営する際は法制度を十分理解したうえで、しっかりとした事業計画を立てることが大切です。

なお、弊社は、障がい者が安心して生活できる住まいを提供するための「ゴールドテラス」を提供しています。
障がい者グループホームの経営に興味がある方は、ぜひ一度「障がい者福祉施設の運営支援・建設ページ」をご覧ください。

また、障がい者グループホーム特別セミナーや資産運用セミナーも常時開催中なので、あわせてチェックしましょう!

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この記事の監修者

西尾 陽平
西尾 陽平
役職
土地活用事業部 執行役員
保有資格
資産形成シニアコンサルタント、2級ファイナンシャル・プランニング技能士

大学卒業後同社へ入社し、地主さんの土地活用という資産形成や節税を実践で学び、現在は土地のない方へ、土地から紹介し不動産の資産形成の一助を行っている。実践の中で身に付いた視点で、分かりやすく皆様に不動産投資のあれこれをお伝えしています。