海外不動産の節税効果は低下した?損をしないために必要な対応も解説
海外不動産への投資を考えて「税制改正の内容や、節税効果が気になる」という方も多いでしょう。
日本の法定耐用年数で減価償却できる海外不動産は高い節税効果を持っていたものの、2020年度の税制改正で従来のルールは適用不可となりました。
税制改正の内容や変化を理解しないまま海外不動産を購入すると、「節税効果を感じられない」と後悔する可能性もあるので注意が必要です。
この記事では、海外不動産の節税効果について2020年度の税制改正内容や改正後の対応を解説します。
基礎知識や節税しにくい海外不動産を売却する際の注意点も紹介するので、参考にしてください。
目次
節税スキームを理解するための基礎知識
節税スキームを理解するためには、基礎知識として以下の2つを押さえておく必要があります。
- 減価償却とは
- 損益通算とは
海外の不動産投資は、主に上記の会計処理を使って節税効果を生み出していました。
税制改正など具体的な内容をチェックする前に、しっかりと基礎知識を理解しておきましょう。
減価償却とは
減価償却とは、固定資産の取得費用を法定耐用年数で分割して経費計上する会計処理のことです。
減価償却は「時間の経過とともに価値が減少する」という考え方に基づいており、取得年に全額を経費とするのではなく一定期間に配分して計上します。
減価償却できる固定資産の例は、以下の通りです。
- 建物
- 建物附属設備
- 構築物
- 器具・備品
時間が経過しても価値が減少しない固定資産は対象外であり、例えば土地は減価償却できません。
また、建物の法定耐用年数は、下表の通りです。
構造・用途 | 事務所用 | 住宅用 |
木造・合成樹脂造のもの | 24年 | 22年 |
木骨モルタル造のもの | 22年 | 20年 |
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造のもの | 50年 | 47年 |
れんが造・石造・ブロック造のもの | 41年 | 38年 |
金属造のもの(骨格材の肉厚が4㎜を超えるもの) | 38年 | 34年 |
中古の建物を取得した場合には、簡便法という計算方法を用いて法定耐用年数を算出できます。
簡便法の計算式は、以下の通りです。
- 法定耐用年数を全て経過している場合:法定耐用年数×0.2
- 法定耐用年数を一部経過している場合:(法定耐用年数−経過年数)+経過年数×0.2
例えば、築23年の木造アパートを中古で購入すると、法定耐用年数を全て経過しているため「22×0.2=4.4」で耐用年数は4年となります。
引用元:
・国税庁|No.2100 減価償却のあらまし
・国税庁|主な減価償却資産の耐用年数表
・国税庁|No.5404 中古資産の耐用年数
【関連記事】木造住宅の減価償却とは?節税に向いている理由や計算方法を解説
損益通算とは
損益通算とは、同一年分の利益と損失を合算して相殺することです。
例えば、会社員などが副業として不動産所得を得ている場合に、不動産所得の赤字分を給与所得と合算でき、課税所得額を減らせます。
損益通算の対象となる所得は、以下の通りです。
- 不動産所得
- 事業所得
- 譲渡所得
- 山林所得
対象外である株の損失は他の口座での取引と損益通算できますが、給与所得や不動産所得とは合算できません。
ただし、損益通算の対象所得であったとしても損失の内容によっては認められない場合があり、注意する必要があります。
不動産投資においては、以下の損失は損益通算が認められていません。
- 別荘のように趣味・娯楽などの目的で貸付けするもの
- 必要経費に算入した土地などを取得するために要した、負債の利子に相当する部分の金額
- 耐用年数を「簡便法」により計算した減価償却費に相当する部分の金額※
※2021年以後、国外中古建物の不動産所得に損失がある場合
事業が赤字で確定申告が不要なケースでも、損益通算をするためには確定申告の手続きが必須となります。
引用元:
・国税庁|No.2250 損益通算
・国税庁|No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算
海外不動産で節税しやすかった2大理由
海外不動産で節税しやすかった理由は、主に以下の2つです。
- 日本の法定耐用年数が適用されていたため
- 損益通算できていたため
それぞれの理由について、詳しく解説していきます。
【関連記事】海外不動産投資とは?メリット・デメリットや注意点を解説
理由①:日本の法定耐用年数が適用されていたため
2020年度の税制改正以前は海外不動産に日本の法定耐用年数が適用できたため、節税効果を得られました。
減価償却は法定耐用年数に応じて分割しており、法定耐用年数が短期間であればあるほど1年間に計上できる額が増えることから、大きな節税効果を得られます。
日本と海外の木造住宅における法定耐用年数と、住宅寿命を比較してみましょう。
国 | 法定耐用年数 | 住宅寿命 |
アメリカ | 27.5年 | 104年 |
イギリス | なし | 140年 |
日本 | 22年 | 30年 |
日本は他の先進諸国よりも法定耐用年数が短く、日本の会計処理に当てはめたほうが効率良く減価償却できることが分かります。
また、法定耐用年数を過ぎた中古物件であれば、日本のルールに沿って処理すると4年という短期間で減価償却することが可能です。
欧米での建物の価値は時間が経過するにつれて高まる傾向にあり、住宅寿命も長いので中古物件を運用しやすい環境だといえます。
理由②:損益通算できていたため
法定耐用年数同様に2020年度の税制改正以前は、海外不動産の減価償却費を給与所得などと損益通算できていたため節税効果を得られました。
特に中古物件は、物件の種類によっては4年という短期間で減価償却できるため、大きな節税効果があります。
例えば、海外で築23年の木造アパートを5,000万円で購入するケースをシミュレーションしてみましょう。
耐用年数 | 22年×0.2=4年(端数は切り捨て) |
減価償却費 | 5,000万円÷4年=1,250万円 |
1年間の家賃収入 | 625万円 |
損益 | 625万円−1,250万円=−625万円 |
税制改正以前であれば赤字分の625万円を給与所得などと合算できましたが、税制改正以後は赤字分がなかったものとみなされています。
また、土地を取得するために必要となる利子についても損益通算の対象外であり、節税効果が薄れているのが実情です。
家賃収入1,200万円で、土地の借入金利子を500万円とした場合のシミュレーションは下表の通りとなります。
家賃収入 | 1,200万円 |
借入金利子 | 500万円 |
通常経費 | 900万円 |
損益 | 1,200万円−(500万円+900万円)=−200万円 |
減価償却費と同じく、赤字分の200万円は他の所得と損益通算できません。
経費の中で大きなボリュームを占める減価償却費や土地の借入金利子を損益通算できず、海外不動産を取得する魅力が減る結果となりました。
海外不動産の節税にストップ!2020年度の税制改正とは
2020年度の税制改正で海外不動産の取得に関わる部分は、下表の通りです。
対象 | 内容 |
国外中古建物の不動産所得の計算上損失がある場合 | 耐用年数を「簡便法」により計算した償却費に相当する部分の金額については生じなかったものとみなす |
国外中古建物を譲渡した場合 | 譲渡所得の計算上、償却費の累計額からなかったものとみなされた部分の金額は除外する |
税制改正によって中古物件の減価償却の赤字分を損益通算できなくなり、事実上節税にストップをかけたといっても過言ではありません。
中古の海外不動産に対する締め付けが強くなったのは、節税目的で購入する投資家が増えて、会計監査院や国税庁が問題視した背景があります。
ただし、法人は対象となっていないことから、従来通り節税することが可能です。
海外不動産で引き続き節税効果を期待するなら、法人化を視野に入れる必要もあるでしょう。
引用元:総務省|令和2年度税制改正の大綱
税制改正後も海外不動産を保有する際の対応
税制改正後も海外不動産を保有する際の対応は、以下の3つです。
- 継続的にインカムゲインを得る
- 複数の不動産を所有する
- 資産管理会社を設立する
海外不動産を増やそうと考えている方も、これから取得する予定の方も、ぜひ参考にしてください。
対応①:継続的にインカムゲインを得る
税制改正後も海外不動産を保有する場合は、継続的にインカムゲイン(家賃収入)で収益を得ましょう。
日本は新築が重視される傾向にある一方で、アメリカなど中古住宅が主流の国も多くあるためです。
実際、海外と日本の中古住宅の比率は下表のようになっています。
国名 | 中古住宅の比率 |
日本 | 15〜20% |
アメリカ | 75〜80% |
イギリス | 85〜90% |
フランス | 65〜70% |
欧米では住宅全体の70〜80%が中古住宅を占めており、非常に大きな需要があるといえます。
日本のように「築年数が経過した物件は家賃を下げないと入居者を確保できない」などの悩みもなく、安定的な収入を得られるのも魅力です。
また、少子化に悩む日本とは異なり、人口増加が起きている国や経済的に成長している国も多く、今後の需要を見込めます。
減価償却の赤字分が損益通算の対象から外れたものの、修繕費用や管理費用は継続して経費計上できるので、他の経費で所得を抑えることも可能といえるでしょう。
対応②:複数の不動産を所有する
複数の海外不動産を所有して、課税対象所得を抑える方法もあります。
国税庁で禁止されているのは以下の2つであり、海外の不動産同士で損益通算することについては規制されていないです。
- 海外の中古不動産と国内にある不動産から生じる不動産所得
- 海外の中古不動産と不動産所得以外の所得
また、さまざまな国や地域の不動産を所有すれば分散投資になり、社会情勢や経済状況が変化しても影響を受けにくい資産構成ができます。
ただし、複数の国に不動産投資すると確定申告がより煩雑になるので、事前に税理士などに相談してから投資を決めてください。
引用元:国税庁|No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算
対応③:資産管理会社を設立する
2020年度の税制改正において規制の対象となったのは個人のため、資産管理会社として法人を設立すれば節税できます。
資産管理会社を設立するメリットは、以下の3つです。
- 節税効果が高い
- 社会保険に加入できる
- 損失と利益の偏りをなくせる
法人であれば従来の方法で減価償却できるのはもちろん、経費対象の幅が広がります。
法人税は個人よりも税率が低い分、法人化するだけでも節税が可能です。
欠損金の繰越控除期間も10年と個人よりも長いため、損失と利益の偏りをなくしながら上手に運用しましょう。
【関連記事】資産管理会社とは?運営するメリット・デメリットから設立方法まで解説
節税しにくい海外不動産を売却する際の注意点
節税しにくい海外不動産を売却する際の注意点は、以下の3つです。
- 投資需要が下落する可能性がある
- 売却完了まで時間がかかる
- 国内外さまざまな税金がかかる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
注意点①:投資需要が下落する可能性がある
社会や経済の情勢によっては海外不動産の価格が下落し、キャピタルゲイン(売買差益)が下がる可能性があります。
売却時期を見定める指標として、以下の2点をチェックしてください。
- 為替:日本円に換金した場合に為替差損が生じないか
- 競合:同程度の物件が売りに出されていないか
例えば、アメリカにある物件を売却する場合には、円高ドル安の状態で売却すると日本円への換金時に為替差損が発生します。
自身が売りたい物件と同じ規模・間取りの物件が売りに出されていると、売却価格が下がるケースがあり、競合の調査も欠かせません。
その他にも、災害や紛争などの影響で経済情勢が変化する可能性があるため、日頃からニュースなどをチェックして情報収集しましょう。
注意点②:売却完了まで時間がかかる
日本では物件を3〜6か月程度で売却できますが、海外不動産は売却完了までに1年以上の時間がかかる可能性があります。
東南アジアなど不動産売却の情報インフラが整っていない国は、さらに時間を必要とする場合もあるので注意してください。
例えばアメリカの西海岸で物件を売却する場合の手順は、以下の通りです。
- 不動産エージェントを選定する
- 売却価格を設定する
- 専門サイトに登録して売り出す
- 購入希望者からのオファーを待つ
- 物件売却前の手続きをする
- 売却が完了する
売却がスムーズに進むかは不動産エージェントにかかっており、不動産売却に精通した信頼できる担当者を見つける必要があります。
国や地域によって売却に必要な手順・期間が異なるので、購入するときから出口戦略を見据えて情報収集しておくことが大切です。
【関連記事】アメリカの不動産投資とは?メリット・デメリットや国内との違いを解説
注意点③:国内外さまざまな税金がかかる
海外不動産の売却には国内外さまざまな税金がかかるため、思ったような収益を得られないケースがあります。
譲渡所得に対して発生する国内の主な税金は、以下の通りです。
5年以下の所有の場合(短期譲渡所得) | 譲渡所得×39.63%(所得税及び復興税30.63%、住民税9%) |
5年超えの所有の場合(長期譲渡所得) | 譲渡所得×20.315%(所得税及び復興税15.315%、住民税5%) |
次に、国外で発生する税金について、アメリカとマレーシアの例を確認してみましょう。
国・地域 | 主な税金 |
アメリカ(カリフォルニア)の場合 | キャピタルゲイン税:10~35%(所有1年以上は15%) 連邦源泉税:売却価格の10~15% |
マレーシアの場合 | キャピタルゲイン税:30%(所有6年目からは10%) |
短期間で手放す場合には、国内の譲渡所得に関わる税金や対象国のキャピタルゲイン税のボリュームが大きくなり、収益を下げてしまいます。
不動産エージェントに対する報酬など諸経費も発生するため、入念なシミュレーションが必須です。
引用元:
・国税庁|No.3211 短期譲渡所得の税額の計算
・国税庁|No.3208 長期譲渡所得の税額の計算
海外物件の購入以外で不動産投資の節税効果を高める方法
海外物件の購入以外で不動産投資の節税効果を高める方法は、以下の2つです。
- 国内の木造×築古物件を探す
- iDeCoに加入する
さまざまな方法を実践して、節税に取り組みましょう。
方法①:国内の木造×築古物件を探す
国内の木造×築古物件であれば短期間で減価償却できるため、大きな節税効果を狙えます。
木造×築古物件の減価償却の特徴については、以下の通りです。
- 木造の法定耐用年数は22年で、他の構造と比較して短い
- 法定耐用年数を過ぎた木造であれば、4年と非常に短い
法定耐用年数を過ぎた築古の木造物件であれば最短4年で減価償却が可能で、1年あたりに計上できる経費を増やせます。
また、木造物件には以下のメリットもあります。
- RC造などに比べて固定資産税を抑えられる
- 修繕の1回あたりの費用が安い可能性がある
- 家賃を安く設定できる場合がある
RC造など他の構造の建物に比べると、固定資産税や修繕費用を抑えられる傾向にあります。
ランニングコストが低いと家賃を安く設定でき、空室リスクを軽減できるのがポイントです。
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方法②:iDeCoに加入する
インカムゲインなどの収益をiDeCoに回せば掛金が全額所得控除となるので、当年分の所得税と翌年分の住民税を減らせます。
iDeCoとは、国民年金や厚生年金の公的年金にプラスして給付を受けられる私的年金制度です。
掛金や金融商品を自身で選択して運用し、原則60歳以降に年金として受け取ります。
加入資格によって掛金の限度額が決められており、下表の通りです。
加入資格 | 掛金の限度額 |
自営業・学生など | 月額68,000円 |
会社員など | 月額12,000〜23,000円 |
公務員 | 月額12,000円 |
専業主婦(夫)など | 月額23,000円 |
iDeCoを利用して所得控除を受けるには、年末調整か確定申告が必要なので注意しましょう。
まとめ:不動産投資するなら海外より国内がおすすめ
2020年度の税制改正で従来の減価償却や損益通算が海外不動産に対して適用不可となり、節税効果が薄れる結果となりました。
税制改正後に海外不動産を運用する場合には、複数の不動産を所有したり、資産管理会社を設立したりして課税対象所得を減らしましょう。
現状では、海外不動産と比べて国内不動産投資のほうが税制面でお得です。
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